忘れられた戦場で

とあるブスの身の上話

【後編】フェミニストによるブス差別 5

【前編】フェミニストによるブス差別 5 - 忘れられた戦場で

【↑の続き】

女性差別/容姿差別」に含まれないブス差別

「すべての差別に反対します」のなかに、“女”は含まれないとの指摘がよくなされる。同様に「女性差別に反対します」のなかに、“ブス”は含まれていないと感じる。

男社会のなかで女性の困難が二の次にされてきたように、女性のなかでブスの困難は二の次にされてきた。
ルッキズムを主題とした数少ない論壇の場でさえ“ブス”が俎上に載せられるのを(私は)見たことがないし、逆に“ブス”が主役になるときはせいぜい女性誌の座談会のような軽い切り口でカジュアルに扱われるのが関の山だ。
女性差別/容姿差別のいずれにおいても、ブスほどわかりやすい被差別属性はないはずなのに、どちらの場でも隅っこへ追いやられ、あるいは最初から壇上にさえ上がれない。
そんなふうに「問題視されない」ことに、ブス差別のすべてが集約されているような気がしてならない。

ルッキズムがなくなれば、理論上はブス差別もなくなる。
だから、「あえて“ブス”に焦点当てる必要はないよね?」とやっているのが、反容姿差別ORフェミニズムの現状のように思う。
ブスを排除するという差別をかましながら、差別をなくそう!とやっているのだ。
そんな矛盾を抱えているうちは、けっしてルッキズムはなくならない。
ルッキズム反対/女性差別反対のなかにブスが包摂されないのなら、「ブス差別反対」と掲げるしかない。
そうでなければブス差別はなくならないし、ブス差別をなくせないならルッキズム自体なくすことはできない。

これも男と女に置き換えるとわかりやすい。
男性を苦しめる“男らしさ”というジェンダー観がなくなれば、理論上は女性へのそれだって同時に消滅するだろう。
だけど、そのために「男性差別をなくそう」とやっていたら女性差別はなくならないし、女性差別をなくせないなら“男性差別”もなくすことはできない。
強者のほうに照準を合わせているかぎり差別はなくならない。
こうやって書くと、「強者→弱者」の概念がわかりやすいのではないかと思う。

そして、ルッキズムを温存したまま女性差別をなくすことは不可能だと私は思っている。
「上から下への一方向」を思い出してほしい。
女性差別の最深部はルッキズム(ブス差別)だと私は考えているので、どれだけ枝葉を剪定したところで、その根っこを枯らさないかぎり、いくらでも女性差別は復活する。

もしかすると、他者から見た私はブス差別(ルッキズム)という“枝葉末節”にこだわっている人に見えるのかもしれない。
だけど、私からするとブス差別(ルッキズム)を“枝葉末節”扱いしている人こそが、上っ面を撫でているだけ…とまではいわないが、女性差別の本質を捉えそこなっているように見える。
ブスへの差別を小さなことだと捉えてしまう自身の差別意識がどこから来るのか、その心理を掘り下げてみようとも思わないのは何故なのか…、一歩引いたところに立って俯瞰しなければ、けっして見えない世界があるのではないか。

ただし、「ルッキズム以外の女性差別に手をつけてもムダだ」とか「ブス差別に一緒に声を上げてほしい」とか言っているわけじゃない。
ルッキズムを表題に掲げながら“ブス”を排除したり、二の次扱いするような矛盾は起こさないでほしい、ということが言いたい。
その行為自体がルッキズムそのものだからだ。

トランスジェンダー問題をフェミニズムの“アキレス腱”とするなら、ブス差別は“パンドラの箱”そのものではないかと思う。
パンドラの箱はだれもが回避したがる。
一番の近道は一番面倒くさいものだから。

女性自身が“ルッキズム”ではなく如何に“ブス差別”を直視できるかが、女性差別をなくせるか否かの試金石になる。
私はそんな気がしてならない。
今のところ、見通しは暗い。

ブスを取り巻く環境

以下の画像は、左から順にGoogleで「虐待」「性被害」、そして「ブス」というワードで検索したときの結果だ。

「虐待」の検索結果「性被害」の検索結果「ブス」の検索結果

「虐待」「性被害」では上位に支援団体や相談窓口が表示されるのに比し、「ブス」では当事者への薄っぺらい啓蒙記事や生ぬるい創作物しかヒットしない。
いずれも売春の動機となり得るほどの逆境的体験だが、その扱いに温度差があることがわかる。

“ブス”には支援者も支援団体もない。
ブスの真実を代弁してくれるひとは誰もいないし、そもそも真実を知る者はブスしかいない。
だから、当事者が声を上げるしかないのが現状だが、世の大多数の人がブスを差別している側の人間だ。
当事者の声はあっというまに掻き消されてしまう。
空砲はどれだけ撃ち続けようが、大きな音を立てようが、ただの空砲でしかないのだ。

さらに以下は「顔が醜い」の検索結果。

顔が醜い

1ページめには「醜形恐怖症」というワードがずらりと並び、思いこみでない“本当に”容姿が醜い人についての記事がひとつもヒットない。
試しに2ページめをたどってみても、「醜形恐怖症」「身体醜形障害」で占められていることに変わりはなかった。
妄想ではなく現実に罵言を浴びせられながら、投薬治療や認知療法でなにが“治癒”するわけでもなく、真に醜い者の置かれた苦境が社会的にまったく問題視されていないことを如実に表している。

♦♦♦

多くの人がブスへの加害を不可抗力だと思いこんでいる。
ブスの人権は侵しても「ブス差別」のほうは不可侵領域のように踏みこむことがない。
本当に“ブス”こそ不可触民だと思う。

そんな現実をイヤというほど目の当たりにし、最近とみに思うのは、私は「女」でなく「ブス」の味方でありたいということ。

例えば、ツイッター上で圧倒的大多数を占める「ブス差別」にはだんまりだった人が、ブスと思しき女性がちょっとでも「顔整い*1」等の揶揄的な発言をすると、即座に“道徳的正しさ”でもって、たしなめたり突いたりするという現象。
「顔整い」が差別的であるのは大前提としても、こういう手合いの正義ヅラした差別意識には反吐が出そうになる。
私はこれと似たような経験をリアルで何度となくしてきた。
顔が見えないネット上でも変わらないのだから、やっぱり“ブス”という属性への差別なのだろう。

ブスへの過ちは何事もなかったかのように黙過されるが、ブスが過ちを犯したときは鬼の首をとったように責められる。
弱い属性ほど一分の隙もなく「品行方正であれ」と一挙手一投足を監視される。
だから、当ブログの最初のほうで書いたように、“ブス”を自己申告することは、それだけで他者からの厳しいジャッジにさらされる(下に見られる)というリスクを伴うのだ。

差別に差別で応酬するのは不毛だし、たいてい無関係な人を巻きこむはめになるから奨励などけっしてしないが、それでも“ブス”を取り巻くアンバランスな現状を鑑みれば、例え過ちを犯したのが“ブス”のほうであったとしても、また“ブス”が傷つけた相手が女性であったとしても、私は“ブス”の味方になりたいし、そうなれるよう努めたいとも思う。

ブスの味方になれるのは、ブスのほかにはいないのだから。

社会問題化しないブス差別

先の困難女性支援法のパブコメ募集に、「ルッキズムの被害」を支援対象として包括してほしいという意見を送った。
冷やかしだと思われたくないので、本名・電話番号・メアドを付記して。
ルッキズムは性加害の一種だと私は思っているので、困難女性の定義にある「性的な被害」に包摂するか、それが難しいのであれば「容姿差別の被害」と別途明記した上で支援対象に含めるかしてほしいという要望だ。
本当はツイッターで呼びかけることができればよかったのだけど、Aさんの件でまったく手応えがなく意気消沈&疲労困憊しているので今回は見送った。
不特定多数の人に何かを訴えるには時期尚早だったのかもしれない。

それでも、ブス差別に抗議して得られたものが「声をあげてもムダ」という結果だけではあまりにもあんまりなので、自分のなかに燃えさしが残っているうちは砂粒ほどの小さな石でも投げ続けようと思う次第です。

♦♦♦

むかし、私は“ブス”というワードで検索をかけることが滅多になかった。
いまも頻度はけっして高くはないが、ブログを書くために意識して検索するようにしている。
だけど、検索窓に“ブス”と打ちこんでEnterキーを押すだけの作業が、気が重くなかなか思うようにいかない。
きっと、そんなふうに検索行為を回避している“ブス”は多数いるのではないかと思う。
掲載した画像からもわかるように、その先に希望や共感の世界がないからだ。

私はただの中年ヒキニートなので何ができるわけでもないけれど、可能なかぎりこのブログを続けることで、今後も“ブス”のリアルを表に出していきたいと思う。
非当事者のかたにはフィクションのなかの虚像ではなく“ブス”の実像を知ってもらいたいし、私と同じ醜い女性には少しでも「共感の世界」を残したいという思いがある。
本音や感情をありのままにさらけだしても、説教や助言やジャッジをされない「共感の世界」。
当事者が検索エンジンで“ブス”と検索した先に、そんな世界を残したい。

そして、このブログが砂粒ほどの影響力を発揮して、いつか当事者が臆することなく声を上げられる、そんな未来が来るための一助になれることを願いつつ、この記事を閉めようと思う。

最後にもう一度。
言いたいことは「一緒にブス差別に反対してください」じゃなくて、「あなたの中にある差別意識に気づいてください」だ。【完】

***

書きかけの【女性差別震源地】という記事につきまして、すでに最後の4/4も書き上げていましたが、内容的にはほぼ本記事と被っているので、こちらを【女性差別震源地 4/4】とさせていただきます。

ここまで長々とお付き合いいただき、ありがとうございました。

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