忘れられた戦場で

とあるブスの身の上話

私について

私の顔は醜い。

信じられないかもしれないが、学校だけでなく道行く赤の他人にまで罵倒されるのが私の日常だった。

まず、一見してわかるほどに左右の顔が非対称で、それは骨格レベルで歪んでいる。
目と眉の高さと角度、鼻の穴の大きさと形状、口角の上がり具合、ほうれい線の出かた、輪郭の奥行きから頬の肉づきにいたるまで、およそ同一人物とは思えないほど左右の顔がちがう。
耳の形までアシンメトリーだし、顔だけでなく全身の肉づきも左側のほうが薄型だ。
さらに黒目がかなり小さく顔が大きい。
おまけに脂性肌で顔じゅうの毛穴が黒く目立ち、常にテカテカしているからますますバケモノ度に拍車をかけている。

また、私は顔の醜さが激レアレベルなだけでなく、成人男性と同程度に太くて低い声を持つ。
オンナ声の低い声ではなく成人男性の声質なのだ。
もしも顔のことがなければ、声が一番のコンプレックスになっていたことだろう。

顔と声、どちらか一方だけでも相当なレア度だが、これらふたつの要素を併せ持って生まれてくる確率とはいかほどだろうか。

おそらく母胎にいるときに遺伝子レベルの損傷が起きたのだと思う。
あるいは女から男へと変化しきれずに中途半端なまま生まれきてしまったのか。
顔もふくめて左側がプレスしたように薄型なので、母の胎内で左半身が圧迫状態にあったのかもしれない。
いずれにせよ、五体満足ではあるが“普通の人”として生まれてこなかったのは確かだ。

私は今、アラフィフと呼ばれる年齢に差しかかった。
20代後半から、およそ20年に渡ってひきこもっている。
そのあいだに父は鬼籍に入った。
現在は高齢の母とふたり暮らしだ。
母の年金と祖父が残した貸家のわずかばかりの家賃収入で糊口をしのいでいる。

母がいなくなったあとにどうなるのかは自明の理だ。
こうしてパソコンに向かって何かを書くこともできなくなるだろう。
そして、それはそう遠くない未来に訪れる現実だ。

だから、その前に残しておきたいと思ったのだ。

顔が醜い女がどんな経験をし、何を思って生きてきたのか。

人々が持つイメージやメディアがまき散らすステレオタイプではなく、当事者による「生の声」として残しておきたいと思った。

おそらく、いまが自分の体験を綴る最後のチャンスになるのではないかと思っている。