忘れられた戦場で

とある醜女の身の上話

悪役

子どもの頃から悪役で、だれかのヒロイズムや嗜虐心を満たすために倒される存在、それが私だった。

 

幼稚園児のころ、私と女友だち+男の子のなかよし三人組で、よく『怪物くん』ごっこをして遊んだ。
怪物くんはヒーローで、カイコちゃんはヒロインだ。
私はいつもカイコちゃんを襲おうとして怪物くんに退治されるというカイブツの役回りだった。

だから怪物くんごっこは嫌いだった。

うぉーと雄叫びをあげながらカイコちゃんを襲うふりをしなくてはならない。
そうして、怪物くんに剣に見立てた棒切れで斬られ、地面に崩れ落ちるまでが毎度のパターンだった。

 

その日は男の子の住むマンションで怪物くんごっこが始まった。
怪物くんに追いつめられた私はベランダへ逃げこんだ。
すると、怪物くんが室内からベランダの鍵をかけてしまった。

部屋から閉め出され、園児の体感では長い時間が経とうとしていた。
ベランダから部屋のなかの様子を窺うと、怪物くんとカイコちゃんがソファに座ってテレビを見ていた。
すっかり私の存在を忘れてしまっているようだった。
しかたなくその場に座り込んだ。

しばらくすると、二人がガラス戸の向こうから笑顔でこちらを見下ろしていた。
だけど、まだまだ怪物くんごっこは続行中のようだった。
「もう悪いことはしないか?」「カイコちゃんをイジメないか?」
怪物くんから反省を促され、「もうしません」「イジメません」と赦しを乞う。
長きに渡る尋問に一瞬私が泣きそうになると、ようやく男の子が鍵を開けてくれた。

結局、私は泣かなかった。
終始ヘラヘラと笑っていた。

 

後日、またこの三人で怪物くんごっこが始まった。
私はマンションのベランダに放置された件がトラウマになっていた。
前回は泣かなかったのに、その日はなんでもない場面で突然泣き出してしまった。

私は泣きながら訴えた。
いつもいつも、カイブツの役ばかりでイヤだと。
男の子に聞かれた。
「じゃあ、ノネ子ちゃん、好きな役やっていいよ。怪物くんとカイコちゃんのどっちがいい?」

 

私「怪物くんがいい」

 

初の怪物くん役をゲットした。
だけど、慣れない役に照れがあって、いまいち乗り切れない。
それでも近づいてきたカイブツ役の男の子をいなすと、私はカイコちゃんをかばうように腕を広げた。
すると、カイコちゃんがダッシュでカイブツの下へと走り去ってしまった。
「怪物くんよりカイブツのほうがいいワ」
二人にとってはそれが面白い状況だったようでゲラゲラ笑っていた。
私もヘラヘラしていた。

結局いつもと同じことになった。

 

***

 

その後もずっと「悪役」は私の人生における定位置であり続けた。
小学生になっても大人になってもそれは続き、そのたびにヘラヘラと媚びへつらっていたことも同じ。
三つ子の魂百までとは、よくいったものだと思う。

顔が醜い女は最も脆弱な存在だ。
男尊女卑社会のヒエラルキーの最下層に位置する。


だからこそ、ブスは「悪役」を負わされる。


真に弱い立場に置かれた人間は、しばしば悪魔化されるのだ。

こんな大昔の化石みたいなエピソードを引っ張り出してきたのは、そのことを知ってほしかったからだ。

あなたが「悪」だと信じている存在は、何を持ってして「悪」だと判断しているのだろうか。