忘れられた戦場で

とあるブスの身の上話

【前編】オトコ女を制する者は

先日、ツイッターのアカウントを閉鎖しました。
前回までの「フェミニストによるブス差別」とリンクした内容なので、その経緯について記録も兼ねて書き残しておきます。

♦♦♦

事の発端は、女子トイレで男に間違われて通報されたという女性が、「女性が女性を男性と間違えて通報するならトランス女性だって入れていい(※意訳)」とツイートをしたことだった。さらに、このツイ主さんが「通報した女性」への恨み節を吐き出したり「安易な通報(※彼女のツイートより)」に疑義を呈したことから、フェミニストや女性を中心に非難の的となった。彼女は若い時分から何度も男に間違われてきたといい、通報された先で男性警備員に女の証明を強要され胸を見せたり、服の上からプライベートゾーンをまさぐられるなどの性被害に遭った経験があるとのこと。

(※→ツイ主さんのツイートより抜粋

まず、女子トイレで女性が「このひと男かも…」と疑心暗鬼に駆られるようになったのはトランスジェンダリズム(以下TGism)のせいなので、トランスウェルカムへと舵を切ればますます“オトコ女”が通報される確率は高まるにちがいない。そうなれば、ツイ主さんも含めて女性みんなが損をすることになるから、彼女のトランスウェルカム発言に賛同はできないし女子トイレは女性だけのものでなければいけないと思う。

ただし、彼女の主語はあくまで「男に間違われる女性」だ。
頻回する性別誤認の苦悩を(失礼な言い方だけど)なかばヤケクソ気味に放ったのがトランスウェルカムな発言につながったにすぎず、少なくとも一連のツイート群からは本気で男を女子トイレに呼びこもうという意図は私には感じられなかった。

昔から公共の女子トイレでは男の加害行為が後を絶たず、特にTGismが蔓延してからというもの女性トイレそのものが撤廃されるなど多大な実害がでているので、女性たちがこの問題にナーバスになるのは痛いほどよくわかる。だけど、ツイ主さんのほうもまた何度も男に間違われてきたことでナーバスになっているという背景は汲むべきだと思う。

もうひとつの女性差別

その上で、ツイ主さんに向けられたリプライと引用RTの数々が、そこにトランスイデオロギーとは別の女性差別をはらんでいることを炙り出していた。

もう一度いうけど、彼女のツイートの本旨は「男に間違われる」ことの苦悩だ。何年も前から同様のツイートをしていることからそのことが窺える。男に間違われることがトラウマ化していると彼女が言うように、本来は性別を誤認されること自体が恥辱感を喚起する被害だ。誤解を解けば解決なのではなく、性別を疑われた時点ですでに被害に遭ったあとだということ。

私はセクハラに当たると思うので、以後この記事でも性別誤認をセクハラとして扱う(もちろん女性同士でもセクハラは成立する)。あんまりピンと来ない人は、女子トイレで知らない女性からいきなり胸を揉まれるという状況に置き換えてみてほしい。しかも、男でないことの確認のために胸の小さな女性だけがそのセクハラ行為を受けるとしたら、差別的で屈辱的な被害だとわかるはず。

とりわけ女性の安全とプライバシーにかかわる場で男に間違われることは、性別誤認のセクハラ被害のみならず性犯罪者予備軍の汚名を着せられたも同然の二重被害だ。
だけど、ほとんどの女性たちがそれらを被害だと思っていない。
「通報した女性は悪くない(※画像→1,2)」の大合唱で、通報した女性を懲らしめたいとするツイ主さんを糾弾している。

ツイ主さんへの反応

「通報した女性は落ち度なく正しい行動をした」「女性の罪悪感を煽って口を塞ごうとするな」等々….。セクハラ&濡れ衣の被害に遭った女性へのそれとしては辛辣すぎる言葉が並ぶ。

なかには、痴漢被害者を責める痴漢えん罪男や夜道で駆け出す女性に不快感を示す男と同列視してツイ主さんを叩く人までいたけど、いつから男に間違われる女性は男と同じ扱いをされてもいいことになったんだろう。
男は女に対してマジョリティだけど、オトコ女は女の中のマイノリティだ。男のマジョリティ性は女への加害性と直結しているからノットオールメンは唾棄すべきものだが、その論理をオトコ女に当てはめれば差別だし暴力だ。
しかも、男に間違われた苦悩を吐露する女性を、よりによって「男」のカテゴリに放り込んで叩いているのだから、その様はさながら性的ワードを用いて性被害者を貶める「男」のような醜悪さではないか…。

そして、個人的に最も怒り心頭なのが「通報した女性に矛先を向けるのはミソジニー(※→画像リンク)」とまで言い切る女性たちがいたこと。曰く、発端となったTGismや男の性加害に矛先を向けるのが筋だというのが彼女たちの理屈だ。
だけど、ツイ主さんにとって通報した女性は性別誤認のセクハラを働き性犯罪者予備軍の汚名を着せた「直接の加害者」だ(直接のやりとりの有無を問わず)。また、女性のそういう行為に彼女は傷つけられたのだから、その矛先は通報した女性や通報するという行為に向けていいものだ。
わざわざ遠回りしてTGismや男の性加害に照準を合わせる必要はない。
被害者には「つらい」「やめて」を言う権利がある。
通報した女性に落ち度はないというけど、ツイ主さんにどんな落ち度があるというのだろう。

それに通報した女性は本来「無実」じゃない。女性を男性と誤認して傷つけた加害者だ。悪気はないから、ただの間違いだから、恐怖心に駆られただけだから、性被害のトラウマを抱えているから…、通報した女性にそれらの事情があろうとなかろうと、通報された女性が傷つけられたという事実に変わりはないのだから。
通報した女性に通報する自由があるなら、誤認通報された女性もまた通報した女性を訴えたり、文句を言ったり苦しみを吐露したりするのは自由だ。
その結果、女性たちが萎縮して通報をためらうようになったとしても、それは男に間違われた女性のせいじゃないし、それこそ発端となったTGismや男の性加害に矛先を向けるのが筋じゃないのか。
女性の罪悪感を煽って口を塞ごうとしているのは、いったいどちらのほうなんだろう。

前回書いたように女性差別は男社会が根源だから」という印籠で、「女の女性差別」が透明化されていることがよくわかるだろう。

ツイ主さんの過ちは女子トイレへのトランスウェルカムな発言をしたところまでであって、それ以上でも以下でもないはず。

正義の秤の使い方

この件を女性同士の権利のバッティングだと思っている人は完全に見誤っている。
“男に間違われる被害/男から受ける被害”を天秤にかけて「後者のほうが重いから前者は口をつぐめ」とやっているけど両者は端から同じ秤には載っていない。この場合、オトコ女の尊厳を踏みにじっているのは女性だが、女性を襲うのはオトコ女ではないのだから。

もしも秤にかけるとしたら“男に間違える加害/男から受ける被害”のほうが本筋だろう。後者を予防するための必要コストが前者だというなら、コストを負うのは被害者ではなく加害者であるべきだ。つまり、女性の性別を誤認した女性が負うべきリスクだということ。

だけど、いまの段階で性別誤認が罪に問われることはない。
女性を男性と間違えた人が負担できるものは「良心の呵責」しかないのが実状だ。
それなのに、唯一背負うことができるそれすらも性別誤認の恥辱を味わわされた被害者側に丸投げすることを妥当としている。
被害者にとっては一発殴られたあとで人ちがいを理由に暴力をノーカン扱いされているも同然なのだが、「女性が罪悪感を覚えて通報をためらうから」という理由でその被害に箝口令まで敷かれるというさんざんな扱いだ。

ツイ主さんの「二等国民」という発言を想起せずにはいられない。
少なくとも、この女性たちが守りたい「女性」のなかに“オトコ女”は含まれていないようだ。

人を傷つけたら罪悪感を感じましょう

大人の女性なら自分が通報した結果をきちんと知るべきだし、結果として誤って女性を通報してしまったのならきっちり罪悪感を覚えてほしい。自分が犯した過ちの結果を引き受けるのは人としての責任だと思う。

子どもには性別を間違われることはその人にとって傷つくことだと教えてほしい。
「女子トイレで女に見えない人がいたら逃げて大人に知らせなさい」それだけで終わらせないでほしい。そこで終わってしまうと「女に見えない人」はそういう扱いをされて然るべき存在だという意識を植えつけてしまう。
その差別意識は、男児に間違われやすい女児へとダイレクトに向かうことになる。
人の痛みを教えないことと通報をためらわせないことはイコールじゃない。

そして、男に間違われる女性の痛みより女児の安全をとるという人は、男の子に間違われやすい少女のことをどう思っているんだろうか。
男の加害性をとくと説きながら「あなたのためでもあるんだよ」「通報した女の子(女性)のこと恨まないであげてね」と不当な扱いを受忍させるつもりだろうか。
そんなことをすれば、おまえは一段下の人間だという烙印を押しているも同然で、少女は生涯に渡って無力感にさいなまれることになるだろう。

少女/女性が男に間違われるという被害に怯えることなく、安心して女子トイレを使う権利はないがしろにされて構わないものだろうか。

性別誤認はセクハラです

女子トイレで男に見える人がいたらガンガン通報すればいいと私は思う。
特にトランスカルトが跳梁跋扈している昨今の世情を鑑みれば、なおさら。
また、その際に女性を男性と見間違えるケースが発生してしまうのは現状しょうがない面がある。

だけど、その「しょうがない」を男に間違われた女性にぶつける行為は、まったくもってしょうがなくなんかない。性別を誤認された被害者に向かって、黙らせようとしたり、わからせようとしたり、わきまえさせようとしたり…、セカンドレイプもいいところじゃないか。
人を傷つけたことを知ると罪悪感が湧くから傷つけられた人は黙ってろ、というジャイアニズムを振りかざしていることに気づいてほしい。

性別誤認はセクハラだし、本来あってはならないことだ。あくまでTGismという緊急性の高い暴力を回避するために、急場しのぎの措置としてそれが免責されているにすぎない。そういうふうに捉えてほしい。

男に間違われるとは当事者にとって、それほど耐えがたい恥辱感をともなう痛みだということ。

一生を左右するほどのダメージを負うのは「言葉の暴力」だって同じなのだから。【続く】

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前回記事の画像について、高精細ディスプレイだと画像サイズが小さくて文字が読めないぽいので拡大したものに差し換えました。モニタによっては超巨大画像になっているかもしれませんがご了承ください^^;

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